今回のテーマは直腸の手術。
直腸癌の手術方法はここ十数年で大きく変化しています。
以前は直腸癌といえば手術をすれば人工肛門の生活を余儀なくされていたのですが、最近は肛門を残す手術が主流となってきています。
肛門を残すか残さないかというのは患者さんの生活にとって大きな違いがあり、患者さんはほぼ100%といっていいほど肛門を残すことを希望されます。
やはり患者さんにとっては人工肛門というものは、抵抗があることは間違いありません。
肛門から普通に便をすることが患者さんのその後の人生の質(QOL)にとって非常に重要です。
(人工肛門は腸管を腹壁に固定して、そこから便が出るようにするものであり、元々の肛門は閉じてしまうか、全く使わなくなってしまいます。
そして腹壁に固定したパウチという袋に便を貯めて、適宜捨てるということをします。)
大腸肛門外科のここ20年はいかに肛門を残して根治的な手術ができるかを追求しているといっても過言ではないでしょう。
肛門を残すか残さないかは「癌の種類、肛門からの距離、癌の深達度」などが重要です。
特に肛門からの腫瘍までの距離が非常に重要です。
また無理をして、肛門を残しても、癌が再発したり、便を失禁してしまっては患者さんのQOLは非常に悪くなってしまいます。
そのあたりの見極めがとても重要になってくるのです。
まあ、この話をするととっても長くなってしますのでやめておきます。
しかし、直腸癌の手術での肛門の温存に大きく寄与したのは「自動吻合器」の登場があると思います。
骨盤の中はとても狭いうえに奥深く、手が入りにくく手術がしにくい場所です。
直腸癌の手術を行うときには癌のさらに奥で直腸を切離してS状結腸と吻合しなければいけないのでどうしても手で縫うのは限界が出てきます。
それを自動吻合器でガッシャンとやってしまえば一発で吻合ができてしまうというわけです。
そのため以前では人工肛門になってしまった直腸の癌の手術でも今では普通に吻合することができるようになっています。
直腸の手術の手順としては下の図に書いたとおり、
①S状結腸を切離してアンビルヘッドを固定しておく。
②直腸を自動縫合器で切離して病変を含む直腸を摘出する。
③肛門から自動吻合器を挿入してS状結腸に固定したアンビルヘッドと結合する。
④自動吻合器をファイアーして吻合を完了する。
というようなことをします。
手で縫うのと較べると格段に楽で、さらに安心感があります。
針を通したり、操作するのが骨盤の中はとても難しく正確に直腸やS状結腸の壁を縫ったり、漏れの無いように縫うためにはとても高度な技術が必要で、その手術の正否を分けるところであります。
それを自動吻合器は一度ですませてしまうことができます。
しかしそれでも直腸の手術の時に緊張するところの一つがこの吻合の時なのです。
この吻合の出来不出来によって、患者さんのそのあとの、人生における排便のクオリティがかかっているので、自動吻合器を使った吻合でも気を抜けないというのは確かです。
しかしこの作業をしていると慣れっこになっているのですが、はたから見るとおそらくものすごく「えげつない」作業なんだろうなと思います。
砕石位という足を開いた恰好の患者さんの肛門から直径3cmほどの自動吻合器を挿入して吻合するのです。
患者さんはもちろん麻酔がかかっているのでそんなことはわからないのですが、「なかなか、すごいことをやっているな」といつも思っています。
しかし、この吻合法があるおかげで、人工肛門を免れることができる患者さんが多数いるということは間違いありません。
この「えげつない吻合」を「いともたやすく行うことができる」自動吻合器はすごいですね。
ちなみに「自動吻合器」の原型を開発したのは京都府立大学の峯勝(みね・まさる)先生(1904~1990)だそうです。
日本人外科医の情熱が手術の可能性を大きく替えていったということを知ると、まだまだおいらも頑張らなくてはと思います。
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